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病・医院事業者における
相続・事業継承対策について

医療関係者の事業継承の特徴

相続税及び事業継承対策といっても多種多様な問題を包含しているため、全く同じ事業種類・相続財産・相続人構成であったとしても、事業者が、どこに重点を置くかによって、実施する選択肢はずいぶん異なり、相続や納税結果等も違ったことになります。

医療関係者に関しての特徴は、(1)個人の診療所、医療法人の診療所・病院、関連するMS法人等その事業主体の多様性、(2)医療法人においては配当が禁止されており、しかも出資持分の流動性(換金性)が低いこと、(3)医療法の改正等(税制改正含む)により、事業主体の法的基礎環境(平成19年医療法改正・経過措置的医療法人等)が変わるリスクがあること、(4)さらに、資格がなければ事業体の継承が難しい点など、通常の相続・事業継承対策とは異なった側面が存在します。

理念確立の必要性

これは医療関係者に限ったことではありませんが、まず、どうすべきか、どうあるべきかの「理念」をきっちり捉えて、諸問題をクリアにしていく必要性があります。これが定まらないと、もともと無限に近い選択肢の中で、意思決定が右往左往することになります。事業継承・相続対策は、一朝一夕にできるものは効果が少なく、長期的視点に立脚して、できるだけ早期に開始することが基本です。そのためにも、この理念を確定する必要があります。当然、将来のことなど誰も分かりません。しかし、ある程度の方向性を決めて、予見が不可能であったり、可変性がある場合はあえて一極的な方策を採らないなど、今判明している経営環境下で、検討を積み重ねていく必要性があります。

主な検討事項

事業継承相続対策における検討事項は、概ね下記の3つに集約されます。つまり、大枠として人的対策・節税対策(プロセス)・納税資金対策(結果)に区分されます。

人的対策

これは、誰が相続財産・事業体を取得・継承するかの問題です。シンプルな命題のようで、非常に奥が深く、多くの経営者が悩まれる事柄です。

相続人が配偶者のみ・配偶者とその子1名の場合は、通常、それほど大きな問題は生じません。つまり、相続人(以下事業継承者含む)の選択肢が少ないため、被相続人・相続人双方の意思に関わらずある程度方策が決まることが多いからです。

問題は、継承者が複数名存在したり、親族以外の方々が継承する場合です。

医療関係者の場合は特に、(1)資格の有無やその専門性(全て有資格者でも誰が継承するかで問題ですし、一部有資格者がいる場合でも有資格者とのバランスが問題)、(2)事業継承者の意思(自分は勤務医をやっていくので病・医院の財産はいらないので現預金が欲しい、地方には行きたくない等)、また(3)医療法人の場合、出資持分財産性(換金性)を疑問視する方がいたりと苦慮する点が多く存在します。ここで必要なのは、件で述べた理念です。医療事業体はその意思の他にも、その地域の公共性・社会性をとうい責務も負っています。この件は誰が一番、分かっているかと言えば、現理事長・院長等であり、他の何人も他言を挟む余地はありません。逆に、この点がしっかり決まれば、あとは、専門家の助言のもとに長期的な対策を講じていけばよいことになります。

相続・事業継承の対策を講じる場合の基礎的要素・大前提といえます。

節税対策

相続・事業継承が実施される場合、できるだけ税金を安くすることによって、次世代が順調に事業・財産を引き継いでいくということは、多くの経営者が望んでいることであり、また、税理士等の専門家の助言が最も必要になってくる領域です。

病・医院を経営されている場合は、事業に供されている土地建物などの不動産、出資持分・現預金等の全ての財産・債務を継承します。(相続財産の範囲内で、債務を相続する限定承認は除く)医療法人の場合、所有する現預金・不動産・借入金等は医療法人に帰属しており、相続・事業継承人は、医療法人出資持分を継承することによって、間接的に財産・債務を継承します。

主なポイントとしては、下記のものが挙げられます。

1.事業用財産(積極・消極)の引き継ぎ

これは人的対策でも述べましたが、「誰が事業を引き継ぐか」については、基本的には、事業を継承する方が事業用財産を継承することをお勧めします。なぜなら、分割しづらい財産であったり、分割して相続・継承すると、将来的に事業体の所有と経営が分離し、事業継続が困難に成りかねないリスクが生じる可能性があるからです。この際に問題になるのが、事業継承者と他の継承者とのバランスです。つまり、相続財産の多くが事業用不動産や医療法人出資持分で占められている場合です。この場合、事業の継続性を重視するのであれば代償分割という方法が有益です。簡単に言うと代償分割とは、遺産分割にあたって現物を相続した者が、代償として他の相続人に対し債務を負担するというもので、現物分割が困難な場合に行われる方法です。

例えば、下記のようなケースが該当します。

(代償分割例示)
相続人 長男(病・医院継承)・次男のみ
相続財産 宅地のみ(課税評価額 1億円)
代償分割 長男が土地全てを相続し、代償として現預金5,000万円を次男に支払う。
相続課税価格 長男・・・5,000万円(土地1億円−5,000万円)

次男・・・5,000万円(長男からの現預金)

この場合、長男・次男とも評価額上は、5,000万円を相続することになり、数字上のバランスはある程度保たれますし、不動産を分割・売却する必要はありません。

問題は、長男が5,000万円支払うことが可能であればよいのですが、難しいようであれば生命保険金の受取人を長男にしておくことや、毎年110万円の贈与税非課税枠を使い代償現預金を長男に準備していくことが必要です。

2.現預金等での相続・継承を避ける。

財産の評価は、「相続税の財産評価基本通達」に従って行われ、時価により評価するとされています。基本的には、自由度(流動性・換金性)が高いものは高く評価され、結果、相続税負担額多くなります。その最たるものは、現預貯金になりますから、次世代において必要な資産・不可避的な資産は、現世代で支出・購入が基本になります。

また、相続財産の評価は「時価評価」と申し上げましたが、いわゆる売買取引価格とは大きく異なり、評価額が大幅に下がる場合があります。その代表的な資産として、建物・土地・生命保険に存する権利(これらを所有する医療法人出資持分含む)などがありますので、ご紹介いたします。

3.時価と相続税評価額の顕著な差異事例

建物の評価

<固定資産税評価額×1.0>

建物の相続税法上の評価額は、固定資産税評価額×1.0で評価することになっています。固定資産税評価額とは、市町村に納める固定資産税の算定にあたって使用される評価額で3年に1度改訂されます。この固定資産税評価額は、一般に国土交通省が出している地価公示価格のだいたい7割程度といわれています。さらに、その地価公示価格は取引されている時価の8割程度となっているので、固定資産税評価額、つまり相続税法上の評価額は、時価の約6割程度になることになります。つまり現預金1億円で建物を購入すれば、6千万円前後に税務上の評価額下がることを意味します。(第三者にその建物を賃貸していれば、さらに3割(借家権分)が下がります)

宅地の評価

<固定資産税評価額×倍率>/<路線価×各種調整率×地積>

宅地は、上記の倍率方式と路線価方式のいずれかで評価します。路線価は毎年国税庁から発表されますが、この価格は、上記の地価公示価格の概ね8割、つまり実際の流通価格の6割(80%×80%)程度の評価になります。(宅地を賃貸すると借地権割合分が評価減)

相続・事業継承時に資産が現預金か不動産で所有するか、また、自用地(自分で使用している土地)か賃貸しているか等の運用状況で評価額が大きく異なります。病・医院の不動産に関して改築・増築が必要な状況であれば、相続・事業継承時までに実施されることや必要に応じて不動産賃貸借契約締結の検討をお勧めします。

また、金融機関から借入れて不動産を購入すると節税効果も上がります。これは不動産が高額なうえ、上記のように不動産購入時(厳密には3年後)は6割程度の評価になるのに対し、借入金はそのまま消極的財産として、積極財産から差し引かれて、課税価格が算定されるからです。

(例示)
ケース1 現預金:2億円・借入金1億円

財産課税価格:1億円(2億円−1億円)

ケース2 現金預金1億・建物1億・借入金1億円

財産課税価格:6,000万円(1億円+1億円×60%−1億)

ケース3 建物2億円・借入金1億円

財産課税価格:1,200万円(2億円×60%−1億円)

※取得後3年以内の不動産は通常の取引価額(時価)で評価するため、取得後すぐには評価は下がりませんので注意が必要です。つまり、取得後4目以降に上記のような試算が成り立つことになります。

生命保険について

相続開始時において、生命保険契約に関する権利の価額は、相続開始時において契約を解約するとした場合に支払われることとなる解約返戻金の額によって評価され、法定相続人数×500万円の非課税限度額があることが特徴です。具体的に記すと下記のように計算されます。

生命保険契約に関する権利価額
=(A)受取保険金(解約返戻金含む)−(B)500万円×法定相続人数

まず(B)は、個人・法人・医療関係者の区別無く評価額は下がります。ここでのポイントは、当事者にとって都合のよい保険、つまり利回り・解約返戻金・特約・保険会社の安全性等、総合的に勘案して保険商品・保険会社を選択することです。

また保険契約については、最高裁昭和40年2月2日判決にて「保険金受取人としてその請求権発生当時の相続人たるべき個人を特に指定した場合には、右請求権は、××××被保険者の遺産より離脱しているものといわねばならない。」との判決があります。つまり、基本的には遺産協議の対象とならないことになっており、相続財産を予め事業継承者に(保険金受取人)することができますので、合わせて検討する必要があります。

(ちなみに、退職金・慰労金も上記と同様な非課税枠がありますので、医療法人において活用できます。)

(A)については、医療法人出資持分と合わせてご説明いたします。

医療法人出資持分について

医療法人出資持分(平成19年3月31日以前に設立の社団医療法人を対象とし、それ以降に設立された拠出型医療法人は除外)の評価はその事業規模に応じて、類似業種比準価額方式、純資産価額方式、類似業種比準価額・純資産価額併用方式のいずれかによって評価されます。その具体的な計算詳細は省きますが、要は、医療法人の利益を圧縮すること・純資産を圧縮することが評価減につながります。

医療法は54条で、「剰余金の配当をしてはならない。」となっており、長年に亘り順調に利益が出ている医療法人の出資持分評価額は、何十倍・何百倍に大きくなっていることがあります。基本は、贈与税の非課税枠110万円の適用を活用し、税負担を抑えながら移管していきますが、このような利益を急速に圧縮することは容易ではありません。しかし、退職金や不動産修繕費等が発生した期には、出資持分評価額が大きく下がる可能性があり、その期に合わせて、事業継承者・次世代に贈与・売買を通して、次世代へ出資持分を移行していくことはあります。

また、医療法人で生命保険を活用して、評価額を下げることも方策の一つです。(先ほど述べ「生命保険契約に関する権利価額」の評価方法を活用)生命保険には様々な商品がありますが、基本的には年を重ねるに毎に解約返戻率(長期平準定期保険等)が上昇します。この返戻率の右肩上がりの曲線(ある時期から右肩下がり)には、角度が急なもの・平坦なもの等々様々な商品がありますが、ポイントは、出資持分に限っていえば、「契約当初数年は返戻率が低く、後年手厚いもの」をお勧めします。具体的には、下記のようなケースです。

(例示)
ケース1 医療法人純資産1億円/出資口数1,000万口

出資評価額・・・出資1口当たり10円(1億÷1,000万)

ケース2 上記と同じとする。

医療法人の預金1億円で、契約当初の解約返戻率が30%の生命保険に加入したとします。

出資評価額・・・出資1口当たり3円(3,000万÷1,000万)

このように、生命保険金の評価方法によって、出資持分評価額が下がることもありますので、この期に、贈与・譲渡等を行うと税負担が軽減されることになります。

理事長等の退職金の準備も兼ねて検討することは有益ですが、「後年手厚い」ことがなければ、税金は安くなったが解約返戻金は低いとなると、保険会社が利するだけということもありますので注意が必要です。

納税資金対策

この対策は、上記の節税対策と表裏一体です。予め相続税総額を試算し、現状の支払能力を勘案しながら納税資金を準備していくことです。

具体的には、相続税対策で税額を軽減すること、納税資金を確実に確保・運用していくことなどが大きなポイントになります。例えば、変額保険などその死亡保険金額・解約返戻金・満期保険金の額が経済情勢応じて変動するものなどは、この準備適さないと思われますし、終身保険のように予め死亡保険金が確定しているものなどは、確実と言う意味で適合します。

まとめ

相続・事業継承という問題は、非常にパーソナルな性格を有しており、本人の他に、配偶者・被相続人・その他利害関係者の思いや考え方も一つとして同じことはありません。当然、事業を継承するのであれば、本人・職員の教育、体制の整備、世代間ギャップ等、お金以外のケアも重要になってきます。(税金は安くなったが、その後の事業はたち行かなくなった等。)

弁護士でも税理士でも法的に物事を処理することは、プロであればある意味当然です。事業者の理念を共有し、それを土台として長期的・客観的に事象を捉える者が必ず必要と考えますし、事業者もその点を重視して専門家を配置すべきです。

ポイント

  1. 理念確立(プライオリティは何か)
  2. 事業体の現状経営環境の確定(何が決まっていて、何が決まっていないか、不可避的な支出 はあるか等)
  3. その際、時価と税務上評価の差額を有効に活用して税負担を軽減する。
  4. 医療法・税法等の変化のリスクを予見する。
  5. 納税資金を準備していくなど長期的・計画的に対策していくこと。

最後に諸対策を講じる前に、相続税の基本的な仕組みを記しますので、ご参照ください。

相続税の計算の手順

  1. 相続人の全ての財産から相続税のかからない財産(墓地・仏壇等)抽出し財産評価する。
  2. 債務・葬式費用などの消極財産を確定算出。
  3. 基礎控除(5,000万円+法定相続人数×1,000万円)を計算し、1−2−3で課税遺産総額を算出。
  4. 3.の課税遺産総額を法定相続分で取得したとして、後記の税額表に基づき各人の相続税を計算し、相続税総額を算出する。
  5. 最後に、実際に相続した相続割合に応じて、相続税総額を按分し、各人が納める相続税額が確定。

なお昨今、政権が自民党から民主党へ変わったことに加え、デフレ経済不況・格差拡大・社会保障費の増大・国家財政の悪化等、国を支える税についてもこのまま「変化なし」ということはあり得ません。その点も踏まえ、「焦らず・長期的」にということは、常に考慮する必要があります。

相続税税率
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15%(控除額 50万円)
5,000万円以下 20%( 〃 200万円)
1億円以下 30%( 〃  700万円)
3億円以下 40%( 〃 1,700万円)
3億円超 50%( 〃4,700万円)

※基礎控除(5,000万円+法定相続人数×500万円)を越える金額に対して上記の税率。

贈与税税率
200万円以下 10%
300万円以下 15%(控除額 10万円)
400万円以下 20%( 〃  25万円)
600万円以下 30%( 〃  65万円)
1,000万円以下 40%( 〃 125万円)
1,000万円超 50%( 〃 225万円)

※毎年110万円の基礎控除あり。

平成22年1月31日
清水泰三税理士事務所 著

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